SPECIAL TALK
古沢 : 詐欺師の話は好きで、いつかやってみたいという気持ちはずっとあったんです。ただ、連ドラでは難しいだろうと二の足を踏んでいた中で、成河さんがやりましょうと言い出しまして(笑)。
成河 : 次の連ドラで何をやるかというやりとりをしていて、いろんなアイデアが出てきてはいたんですよね。記憶にあるのは、ホテルで打ち合わせをしていたときで、『ワンダとダイヤと優しい奴ら』(チャールズ・クライトン監督/88年)の話になったんです。そのあたりから詐欺師もあるかもなっていう方向になっていって。僕自身も『スティング』(ジョージ・ロイ・ヒル監督/73年)がこの仕事を始めるきっかけだったくらいなので、コンゲームものはやってみたかったんですよ。ただ映画もそうですが、日本のドラマで詐欺師の話は当たったことないっていろんな人に言われました(笑)。
古沢 : 僕が覚えてるのは、『ミックス。』(石川淳一監督/17年)の打ち合わせだったかな、フジテレビで成河さんと会っていて詐欺師をやるかどうかの話になったときに、業界ものっていう切り口が出てきたんですよ。コンゲームものなんだけれど、一方で毎回いろんな業界に潜り込んでいって、その業界の裏側や騙す相手のドラマを描いていく。そこをテーマにすれば連ドラでもいけるかもしれないと思えて、やってみましょうってなったのは覚えてます。
成河 : 連ドラの撮影が2017年の11月下旬からで、今の話がたぶん2016年の秋くらいなんですよね。それが固まって企画書ができあがったのが12月くらいなので、結構時間は掛かっていて。
古沢 : 一番初めにアイデアが出てきて形になったのは『リゾート王編』で、最初はあれを1話にするつもりでいたんですよね。もともと時系列を考えて全体の話を作っていたわけではなかったので、結果として『ゴッドファーザー編』が1話になって良かったです。
成河 : 『ゴッドファーザー編』は五十嵐が出ていない話で、『リゾート編』で初めて出てくるので、あの1、2話の順番は自然と決まりましたね。古沢さんとやるときは連ドラの場合でも何話分かの台本が出来上がってから撮影に入るんですが、今回は一方でエピソードの順番も決めていなかったので、ロケ先やゲストの俳優さんのスケジュールに合わせて話数に関係なく撮っていたんです。日によって、2つの話を同時に撮っていたりもして。『ゴッドファーザー編』はかなり早くから撮り始めていたのが、撮り終わりは結構後ろのほうでしたからね。何カ月やってるんだろうっていう感じで(笑)。
古沢 : 演じる方たちは混乱していたでしょうね(笑)。ただでさえいろんな役をやらないといけないのに、違う話も交じってきて。
成河 : しかも騙すための芝居をしているわけですからね。ただ、俳優さんたちには、最終的に何が嘘で何が本当かというのは物語上できちんと描かれているので、演じる上ではそれが騙しであっても表面上の気持ちになりきってやって欲しいという話はしていたんです。そうじゃないとリアルさがなくなってしまう。そうは言っても難しかったと思いますが、皆さん素晴らしかったですね。
古沢 : 書く側としても、難しかったですよ。騙しの手口を冷静に考えたときに、本当にこんなことをする必要あるだろうかと(笑)。もともと僕が詐欺師の話が好きだったのは、コンゲームの要素に加えて、主人公たちが正義の味方ではないっていう点だったんです。常識やルールから逸脱しているところに魅力を感じていて、ただ享楽的に騙している人たちを描けたら面白いなと思っていて。ダー子というのはまさにそういう人物で、しかも何でもあり(笑)。騙しの手口にしても、ダー子を理に適ったことをやる人じゃないという主人公にしたおかげで乗り切ってる感じがありましたね。そういう意味ではダー子は好きなキャラクターで、描いていて楽しかったです。
成河 : ダー子のキャラクターが出来たときに長澤まさみさんが浮かんで、彼女には“無軌道"っていうワードで役の説明をしましたね。ボクちゃんもキャラクターが見えてきたときに、東出昌大さんだなと。詐欺師っていろいろ調べていくと本来目立たない人が多いんですが、東出さんは大きくてどうにも目立ってしまう(笑)。ただ、ボクちゃんを演じていると目立たない普通の人に見えて、それでいて愛嬌みたいなものがあるのが、面白いんですよ。
古沢 : リチャードと五十嵐は演者に引っ張られて、書いてるうちにだんだん寄っていってしまいました(笑)。五十嵐は最初はもっとニヒルでセクシーな敵か味方か分からない謎の二枚目というイメージで、ボクちゃんとダー子をめぐって三角関係みたいな感じになるとちょっとした恋愛要素も入ってきていいなと思っていたんです。大人のダンディな男になるはずだったんですけどね(笑)。
成河 : 無国籍な雰囲気の人がいいということで、海外で活躍されている日本の方や日本語が話せる外国の方も呼んでオーディションを結構やったんですが、ピンと来る方がいなかったんです。一方で、別のところで面白い俳優さんの話をしていて、最終的に五十嵐もその人でいいんじゃないかということで決まったのが、小手伸也さんだったんですよね。当初の設定とは少々変わりましたが(笑)、うまくはまりました。ただ考えてみたら、五十嵐に恋愛要素がなくなっていった分、『ロマンス編』の三浦春馬さん演じるジェシーにその三角関係を持っていったところはあるかもしれないですよね。
古沢 : 恋愛詐欺というのも、連ドラのときにどこかでやろうと思いながらできなくて残っていたアイデア。それと騙しの手口、ライバルの存在といった断片的なアイデアを最終的につなぎ合わせて出来上がったのが、今回の『ロマンス編』ですね。江口洋介さん演じる赤星栄介は『ゴッドファーザー編』からのつながりですが、すごくカッコ良くて迫力もありましたし、江口さん自身も役を気に入ってくださっていたので、できれば今回も出ていただきたくて。竹内結子さん演じる氷姫のラン・リウは、ナッツ姫や水掛け姫を報道で見ていて、ああいうキャラクターを描きたいなと思ったんです。
成河 : 今回の『ロマンス編』もそうでしたが、1つの話を作っていくのも大変ですよね。ただ、構造上続きが作り続けられる作品なので、古沢さんの永遠の泉から湧いてくるアイデアさえあれば(笑)。
古沢 : アイデアやストックもいろいろあるにはあるんです。ただ、作ろうとして挫折したものばかりなので、それをストックと呼べるのかどうか(笑)。毎回、騙される相手を作るのに苦労するんです。すごく悪い奴にしないといけないのに、僕は結構悪い人が好きなので(笑)、書いてるうちに愛すべき悪い人になってしまって。自分の欲望のためにどんなことでもする人って、一方で魅力的じゃないですか。なかなか今、そんなエネルギッシュな人っていないですからね。だから楽しくもあるんですが、あまりやり続けると演者さんに弊害が出てくる可能性があるのかなと。『マスカレード・ホテル』(鈴木雅之監督/19年)を観たときに、長澤さんと小日向さんは騙しをやってるんじゃないかという気がしてしまって(笑)。巷でもそういう声を聞いたので、気をつけないといけないですよね(笑)。